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東京地方裁判所 昭和37年(モ)6714号 判決 1962年12月28日

判   決

債権者

新東亜交易株式会社

右代表者代表取締役

小島栄三

右許訟代理人弁護士

高橋喜一

債務者

大共化成株式会社

右代表者代表取締役

塙富雄

右訴訟代理人弁護士

西口富美子

右当事者間の昭が三七年(モ)第六、七一四号有体動産仮処分異議事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、当裁判所が、債権者・債務者間の昭和三七年(ヨ)第二、九八九号有体動産仮処分申請事件について、同年五月八日した仮処分決定は、取り消す。

二、債権者の仮処分申請は、却下する。

三、訴訟費用は、債権者の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

債権者訴訟代理人は、「主文第一項掲記の仮処分決定は、認可する。」との判決を求め、債務者訴訟代理人は、主文第一項から第三項までと同趣旨の判決を求めた。

第二  申請の理由

債権者訴訟代理人は、申請の理由として、次のとおり述べた。

一  債権者は、昭和三六年五月十九日、ダイナホーム・モールデイング・マシン・セミ・オートマツト式(以下本件機械という。)一台を東京都墨田区吾嬬町東七丁目五二番地の大共化成株式会社に売り渡す契約をした。その際、右会社は、本件機械をその用法に基いてのみ使用し、本件機械と同一又は類似の機械を製作、販売しないことを特約した。なお、債権者は、昭和三十六年八月下旬右会社に本件機械を引き渡した。

二  債務者と前記会社とは、別個の株式会社であるけれども、商号は、「大共化成株式会社」という同一のもので、両会社の役員も大半共通であり、しかも、本件機械の売買の交渉に当つたのは右会社の取締役であり、かつ、債務者の取締役である奥山勇であるという事情もあるから、社会的存在としては、右会社と債務者とは、同一会社とみるべきものである。したがつて、債権者と右会社との前記特約の効力は、債務者にも及ぶものである。

三  債務者は、昭和三十七年三月ごろ別紙第二物件目録記載のポリスチレンペーパー圧縮成型機(TD―一〇一型)一台を製作し、さらに、別紙第一物件目録記載のスチレンペーパー圧縮成型機を製作、販売しようと計画している。

別紙第一、第二物件目録記載の機械は、本件機械に類似するものであるから、債務者の行為は、前記特約に違反するものである。よつて、債権者は、債務者に対し、特約に基き、別紙第一、第二物件目録記載の機械の製作、販売の禁止の訴を提起しようと準備中である。

四  債権者は、米国ダイナホーム・コーポレーシヨンから本件機械を買い入れて、前記会社にこれを売り渡したものであるが、本件機械の買入れについては、ダイナホーム・コーポレーシヨンとの間に、同会社の日本における将来の独占的販売利益を確保するため、債権者又はその転売先において、本件機械をその用法に基いてのみ使用し、本件機械と同一又は類似の機械を製作、販売しないこと、債権者の転売先において、本件機械と同一又は類似の機械を製作、販売したときは、債権者において、これが差止の請求をする旨の特約をした。したがつて、債権者の本案訴訟の提起にもかかわらず、債務者が別紙第一、第二物件目録記載の機械の製作、販売を続行するときは、債権者は、ダイナホーム・コーポレーシヨンとの前記特約に違反することとなり、同会社から日本における独占的販売利益を失つたことによる損害の賠償請求をうけ、著しい損害をこうむるおそれがある。よつて、債権者は、昭和三十七年四月三十日、東京地方裁判所に対し仮処分の申請をし(同庁昭和三七年(ヨ)第二、九八九号申請事件)、同年五月八日、「債務者は、別紙第一物件目録の機械を製造又は第三者に製造させ、著くはこれを販売してはならない、債務者は、別紙第二物件目録の機械を使用及び販売してはならない。」との仮処分決定を得たが、右決定は、前記理由により正当であり、現在なお、これを維持する必要があるから、その認可を求める。

第三  答弁

債務者訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

一  申請理由第一項の事実のうち、債権者が昭和三十六年五月十九日、債権者主張の会社に本件機械を売り渡す契約をしたこと及び債権者は昭和三十六年八月下旬、同会社に本件機械を引き渡したことは認めるが、その余の事実は知らない。

二  同第二項の事実のうち、債務者と債権者主張の会社とは、別個の株式会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。なお、債務者は、商号をもと中央ガス器具株式会社と称していたが、昭和三十七年三月十三日、大共化成株式会社と変更したものである。

三  同第三項の事実のうち、債務者が別紙第一物件目録記載の機械を製作、販売しようと計画していることは認めるが、その余の事実は否認する。債務者は、別紙第二物件目録記載の機械を庄司鉄工株式会社から買い入れたものである。

四  同第四項の事実のうち、債権者主張の仮処分決定がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第四  疎明関係≪省略≫

理由

債権者が、昭和三十六年五月十九日、本件機械一台を東京都墨田区吾嬬町東七丁目五十二番地所在の大共化成株式会社に売り渡す契約をしたが、右会社は債務者とは、別個の株式会社であることは当事者間に争いがない。したがつて、本件機械の売買に当り、債権者の右会社との間に、債権者主張のような特約が成立したとしても、債務者において、該特約に基く右会社の債務を引き受けたとか特段の事情のない限り、該特約の効力は、別個の法人である債務者には及ばないものといわざるをえないところ、債権者の挙げた全疎明によるも、このような特段の事情の存在を肯認することはできないから、債務者が前記特約に基く義務を負つていることを前提とする債権者の主張は、理由がないものというほかはない。

債権者は、債務者と前記会社とは、商号も同一で、その役員も大半共通であり、しかも、本件機械の売買の交渉に当つたのは右会社の取締役であり、かつ債務者の取締役である奥山勇であるという事情もあるから、債権者と右会社との前記特約の効力は、債務者にも及ぶ旨主張するが、債務者と右会社とは、別個の株式会社である以上、債権者主張のような事実があるとしても、それだけで前記特約の効力が債務者に及ぶものといいえないことは、多くの説明を要しないところである。

以上説示のとおり、債権者の本件仮処分申請は、その被保全権利の存在に関する疎明がないことに帰し、もとより保証を立てさせて、これに代えることも事案の性質上適当とは認められないから、進んで他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。よつて、本件仮処分決定は、取り消し、債権者の右仮処分申請は、却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 米 原 克 彦

裁判官 竹 田 国 雄

第一、第二物件目録≪省略≫

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